コンテンツストラテジーと関連分野

この記事はKristina Halvorson著「The Discipline of Content Strategy」の抄訳です。
This article is a translation of "The Discipline of Content Strategy" By Kristina Halvorson.

私達Webサイトを作る人間は、15年も前からユーザーエクスペリエンス、情報アーキテクチャ、コンテンツ管理システム、コーディング、メタデータ、ビジュアルデザイン、ユーザーリサーチといった、ユーザーが目的のコンテンツに到達できるようにするための知識を発展させてきました。

しかし、Webのメインディッシュとなる事柄については手付かずなまま。コンテンツ自体についての話はずっと放置されています。まぁそれはそうでしょう、と思う人もいるかもしれません。誰でもオンラインの読者に対してどのように記事を書けばいいかくらいわかりますし、リスト表示する方法だって知っています。

しかし、コンテンツにとって一番重要で、ライターにとっては一番怖い質問、「だから何?」や「誰がそんなの読むの?」といった質問に、誰が答えられるでしょう? 誰が時間のかかる、複雑で混乱したコンテンツ制作プロセスを改善しようとしてますか? 誰がケーブルを通して検索エンジンに表示されるコンテンツを監視しているのでしょうか?

Webコミュニティとして、私達はどちらかと言えばコンテンツについて何も発言してきませんでした。実際、私達は暗黙の了解としてコンテンツを他人の問題と見なしています。「それは顧客がやること」と言ったり、「それはユーザーが作っていくもの」と言ったり。そのため、Webサイトを作る人間として特に気にする必要はなかったのです。

これは、現在ほとんどのWebコンテンツがゴミのようなものなのと、何か関係があるのでしょうか?

コンテンツに関わることは複雑で、苦痛で、時間とお金がかかるものです。それでも、Webはコンテンツですし、コンテンツがWebです。私達はもっとコンテンツについて考えるべきですし、そのために時間を使うべきです。そしてその時、コンテンツストラテジーが重要になってきます。

コンテンツストラテジーとは

コンテンツストラテジーは、有効で価値のあるコンテンツの制作、公開、管理を企画するためのものです。

コンテンツストラテジーは、どのコンテンツを公開するかを決めるだけでなく、なぜそのコンテンツを公開する必要があるのかを検討することも含みます。もしそうでなければ、コンテンツストラテジーはその名の通りの「戦略」にはならず、誰も気にしないコンテンツの羅列にしかなりません。自社のCMSを見てみればそれがわかるでしょう。

コンテンツストラテジーは、既存コンテンツの調査と分析といった、通常のプロジェクトではスキップされる作業から始まるものです。そのため、その戦略自体がコンテンツ担当者の成果物となります。もしコンテンツストラテジーを完璧に作り上げたとしたら、次のようなものが定義されることになります。

  • キーとなるテーマとメッセージ
  • 推奨されるトピック
  • コンテンツの目的(例えば、コンテンツがどのようにユーザーのニーズとビジネス要件を繋いでいるか等)
  • コンテンツのギャップ分析
  • メタデータのフレームワークと関連するコンテンツ属性
  • 検索エンジン最適化(SEO)
  • 推奨されるコンテンツの制作、公開、管理方針

コンテンツストラテジーと関連分野

レイチェル・ロビンジャーの有名な記事「Content Strategy: the Philosophy of Data」では次のように書かれています。

「コンテンツストラテジーの一番の目的は、言葉とデータを使って、明確で意味のある、インタラクティブな体験を生み出すコンテンツを作ることです。そのために、私達はコミュニケーションに関する全ての面でエキスパートになる必要があります。」

これはとても高い要求でしょう。「コミュニケーションに関する全ての面」はとても多いため、一般的なコンテンツ担当者が全ての分野で深い知識を身につけるのは難しいかもしれません。

代わりに、コンテンツに関わるものとして、それぞれ独立している分野があると考えてみましょう。ここには次のような分野が含まれます。

  • エディトリアルストラテジー:オンラインコンテンツを管理するためのガイドラインを定義します。オンラインコンテンツには、独自の価値観や、声とトーン、法規制等の注意点、ユーザー投稿型のコンテンツなどがあります。またコンテンツのライフサイクルを含めた、企業のエディトリアル・カレンダーの定義も含まれます。
  • Webライティング:オンラインで公開することを目的とした、有効で価値のあるコンテンツの書き方を定義します。ここにはコピーライティング以上の意味があり、Webライターにはユーザー・エクスペリエンスの基礎を理解し、情報アーキテクチャをコンテンツへ反映でき、効果的なメタデータを書き、常に増え続けるコンテンツのリストを管理する能力が求められます。
  • メタデータストラテジー:メタデータという、「データに関するデータ(もしくはコンテンツ自体に関するデータ)」の種類や構造を定義します。良く出来たメタデータは、読者にとって意味のある形でコンテンツを特定、整理、使用、再利用するのに役立ちます。
  • 検索エンジン最適化:特定の検索キーワードとの関連性を高めるために、ページ内、もしくはWebサイト全体の(メタデータも含めた)コンテンツの編集・整理を行ないます。
  • コンテンツマネージメントストラテジー:企業のコンテンツを公開・保存するためのテクノロジーを定義します。コンテンツを公開するインフラストラクチャー、コンテンツライフサイクルとワークフローの定義は、このストラテジーのキーポイントとなります。
  • コンテンツチャネル配信ストラテジー:コンテンツがどのようにユーザーに配信されるかを定義します。(例えば、Emailマーケティングはこのストラテジーに含まれると考えてください。これはEmailマーケティングがコンテンツを配信してユーザーにWebサイトを見るよう促すことで、単発的なマーケティング施策ではないためです。)

このリストは、コンテンツ管理者がこれらの役割の1つだけを担当し、他の関連する成果物を作らなくても良いということではありません。実際、私の経験では、有効で価値のあるコンテンツを届けるために、コンテンツ担当者はこの内のいくつかの役割を同時に担当することが多いです。

ただ、もしWebコミュニティがコンテンツの企画、制作、公開、管理に関連するこれらの役割を重要だと思わなければ、コンテンツへの正しい取り組みに対する時間も、予算も、専門知識も生まれません。現状のまま、上司や顧客にコンテンツの制作プロセスをしっかり説明することもしませんし、リリース間近の変更指示に追われ、「未確定 – 決定は後日」と書かれたコピーライトのドラフトを使い、ゴミのようなコンテンツを公開し続けることになります。

これはもっと良くなるはずです。私達の顧客も、読者も、ユーザーも、より良いコンテンツを見れるようになるべきです。

世の中に広めよう

ニューヨークの有名なデパート「Saks Fifthe Avenue」の創業者であるデビッド・キャンベルは、「規律とは、自分が何を望むのかを覚えておくもの」と言いました。コンテンツの制作や管理となると、私達は簡単に何を求めていたかを忘れ、求めていたはずの価値のあるコンテンツを削ろうとさえしてしまいます。

しかし、私達がコンテンツを戦略的に企画し、リソースを投資すべきものだと認識するまでは、見当違いなリクエストによって意味のないコンテンツをばら撒き続けるでしょう。今までと同じように、ビジネスの現場からの要求を考えずに作られたページテンプレートに、言葉や音楽、グラフィックやビデオを流し込み続け、顧客は本当は何を求めていたのか解らず、ユーザーが本当に見たいと思うコンテンツを作れないままとなるでしょう。

もう、コンテンツを他人の問題だとする態度は止めましょう。この記事の読者が、今日からコンテンツストラテジーを学び、実践し、世の中に広めていってくれるのを期待しています。

Translated with the permission of A List Apart and the author[s].