コンテンツもモバイルに

この記事はKaren McGrane著「Uncle Sam Wants You (to Optimize Your Content for Mobile)」の抄訳です。
This article is a translation of "Uncle Sam Wants You (to Optimize Your Content for Mobile)" By Karen McGrane.

モバイルの変化に追いつくのは大変です。企業はモバイル向けのコンテンツやサービスを作ろうと重い腰を上げ始めましたが、大半はまだモバイル戦略の必要性を調べ始めた段階でしかありません。しかしその間にもユーザーは、進化し続けるスマートフォンやタブレットを使って、タップ、ピンチ、ズームといった指の動きを駆使しながら、PC向けに作られたサイトを見続けているのです。

モバイルの動きの早さは、政府や公共サービスといった意外な場所でも見られます。オバマ大統領は、少なくても2つの連邦政府のサービスを、2013年中にモバイルデバイスで使えるように指示したといいます。

コンテンツをモバイル向けに最適化するという作業はデジタル政府戦略の一部で、アメリカ国民により良いサービスを提供するための先進的なプラットフォームの構築を目指しています。この戦略では、いかに政府のサービスを国民全体に効果的に、効率的に提供できるかという点について、様々な分野でアウトラインを定義していて、その中には政府機関がテクノロジーやリソースを効率良く共有するにはどうすれば良いか、またプライバシーやセキュリティをどのように維持するかといった内容も含まれています。

しかし、デジタル政府戦略の核にあるコンセプトは、人々がどのようなデバイスを使ってWebに接続しているかに関わらず、政府は国民とコミュニケーションを取り、サービスを提供する必要がある、というものです。

もし政府にとってモバイルへの対応が必要なことなのであれば、恐らく企業にとっても必要でしょう。ユーザーがモバイルデバイスを使ってあなたのコンテンツにアクセスしているのであれば、彼らとコミュニケーションを取るための戦略が必要です。

最新のパーソナルコンピューター革命

ほとんどの人が、高いコンピューティング能力を持ったスマートデバイスを常にポケットに入れています。それは政府の中でも外でも大きな動きを生み、人々はさらに多くのものを求めるようになっています。

スティーブン・バンローケル、U.S.チーフ インフォメーション オフィサー

自宅にブロードバンドインターネットが繋がっていないと想像してみましょう。そうなればインターネットができるのは職場だけ。あなたが何時間Facebookで小学校の同級生の投稿を読んでいるか、「サイのミルクはどんな味?」といった馬鹿げたことをGoogleで調べているかなど、プライベートな行動が上司や同僚に見られる危険があるような場所です。
もちろん、ほとんどの時間はもっとまともなこと、例えばニュースを見たり、リサーチをしたり、銀行口座の残高をチェックしてクリスマスプレゼントを探したり、といったことに使われているでしょう。でも私達は全員、家で隠れてするようなおかしなことをしたくなるものです。それほど私達にとって、自宅にブロードバンドインターネットがあるという環境が普通のことになりました。

もしあなたが私と同じような生活をしていれば、自宅でインターネットができるようになってから20年程経っているでしょう。しかし私達が普通だと思っている自宅でインターネットをするというのは、実は多くの人にとってまだ贅沢なことなのです。

アメリカ人の35%は自宅にインターネット回線がありません。アメリカの人口の1/3以上の人は、オンラインの医療情報や家計簿ツール、アニメーションGIFを自宅で簡単に見ることが出来ないのです。

人種、収入、学歴といったことは全て、自宅にブロードバンド回線を持てるかどうかに影響します。約50%の黒人とヒスパニックは自宅にブロードバンド回線がありません。また、年収30,000ドル以下(約300万円以下)のアメリカ人の60%、高校を卒業していない人の88%も自宅にブロードバンド回線がありません。デジタルデバイドは現実なのです。

しかし、2012年初めに行なわれた調査では、成人したアメリカ人の88%は携帯電話を持っているという結果が出ました。その年の7月に行なわれた調査では、携帯電話を持っている人の55%はスマートフォンを持っており、3ヶ月以内に携帯電話を購入した人の3分の2はスマートフォンを購入したと答えています。

スマートフォンが普及するにつれて、今までインターネットにアクセスできなかった人が、突然手のひらでWebサイトを開けるようになったのです。スマートフォンとブロードバンドの両方にお金を払う余裕が無く、どちらかしか選べない状況では、人は必然的にスマートフォンを選ぶのでしょう。

モバイル オンリー ユーザー

モバイルは究極のアクセス革命です。それはデジタルデバイドを消し去りました。モバイルデバイスは、多くの人にとってのインターネットとなっているのです。

スザンナ・フォックス、Pew リサーチセンター

モバイルデバイスがいかに人々の行動を変えたかというストーリーでは、特に途上国が例に出されます。実際に何十億もの人は、携帯電話からしかインターネットに接続したことが無いためでしょう。このような発展はとてつもなくすごい進歩のように聞こえますが、同時に自分のことではないように思わせます。「モバイル オンリー」なユーザーというのは、アフリカやインド、中国の田舎に住んでいる人のことだと考えてしまうのです。

でも、それは間違いです。

現在アメリカでもモバイル オンリーなユーザーは増え続けています。2012年7月時点で、インターネットにアクセスする時はほとんどいつもモバイルデバイスを使うと答えた人のうち、31%はデスクトップやラップトップコンピューターを今まで一度も使ったことが無いか、またはほとんど使ったことが無いと答えています。また、自宅にブロードバンド接続が無い人ほど、インターネットを使うときはモバイルデバイスしか使っていないという結果が出ました。

  • アメリカ黒人の51%
  • ヒスパニックの42%
  • 年収30,000ドル(約300万円)以下の人の43%
  • 高校卒業かそれ以下の学歴を持つ人の39%

さらに、自宅にブロードバンド接続とフルサイズのパソコンがある人でも、インターネットを使うときは携帯電話を使うと言う人もいます。典型的な例は18歳~29歳の若年層です。もし彼らとコミュニケーションを取りたかったら、まず彼らを携帯から離すことから始める必要があるでしょう。彼らのうち45%は、インターネットを見るときはほとんど携帯電話を使うと答えています。

インターナショナル データ コーポレーションの予測によると、2015年までにインターネットでは、モバイルからのアクセス数がPCからのアクセス数を抜くと言われています。インターネットにアクセスしようとした時、自宅のPCからWebにアクセスできる人でも、その状況や簡単さ、そして手軽さを考えると、多くの人はまずモバイルデバイスに手を伸ばすでしょう。そして自宅にインターネットアクセスが無い人は、モバイル以外の選択肢はありません。

このような状況で、モバイル画面に表示されないようなコンテンツは存在しないのと同じなのです。

コンテンツストラテジーは早ければ早い方が良い

ここで質問です。あなたは今すぐにでも、モバイルサイトに向けたコンテンツストラテジーを策定する作業に取り掛かろうと思うでしょうか?

もしくは、まだモバイルサイトは「おまけ」のようなもので、あった方がいいけどそれを考えるのはPC向けの「本物の」Webサイトのリニューアルの時で良いと考えているでしょうか?

モバイルサイトでコンテンツを届けるのは、あったほうがいいというものではなく、必要不可欠なもの。おまけではなく必須要件です。

人々がインターネットでアクセスする情報を考えてみましょう。どんな種類の情報でも結構です。人々はその情報にデスクトップ以外のデバイスを使ってアクセスします。そして、流し読みしたり、検索したり、詳しく読んだり、ファイルに保存して他のシステムへ入力したり。その全てをモバイルデバイスで行なうのです。

もし企業がデスクトップユーザー以外とコミュニケーションを取ろうとしたら、これは避けられないことです。政府はそのコンテンツを全ての国民へ届けなければいけません。そして、それはモバイルユーザーへ届けるという意味なのです。社会保険や雇用に関する情報など、低所得者や低学歴者へ向けたサービスを提供するなら、それはモバイルで見れなければ役に立ちません。モバイルデバイスしか持たない人が、わざわざデスクトップPCを探してWebサイトを見ることは無いでしょう。

コンテンツはターゲットとする人の所へ届けなければいけません。そのためにモバイル化する必要があるのです。

どうモバイル化すれば良いか

アメリカのデジタル政府戦略では、コンテンツをモバイル向けに最適化する時にユーザー中心のアプローチをとりました。どの企業でも同じような方法を取れば良いとは思いませんが、その方法は参考になるでしょう。

ここでは政府がとったアプローチの特徴的な点を紹介します。

コンテンツを構造化する

現在、アメリカ政府や関連機関が運営するWebサイトの57%ではCMSが使われていません。そのためWebサイトの更新がとても大変なプロセスとなっています。コンテンツは静的なWebページか、最悪の場合は印刷された紙の上にしか存在しないため、新しいプラットフォームへ移動するのが困難になっています。

政府はそのような機関に対して、オープンソースのCMSツールの使用を促進し、更にバラバラなコンテンツを構造化してまとめるために、コンテンツモデリングを行なうよう支援しています。

表示方法に影響されないコンテンツを作る

政府機関では現在、コンテンツ中心的なアプローチを使ってコンテンツの制作を行っています。これはWebサイトやモバイル、パンフレットなど、情報を最終的にどう表示するかを考慮しないでコンテンツを作る方法です。表示とコンテンツを別々に考え、代わりにコンテンツにより細かいカテゴリーやメタデータを記述することで、コンテンツを様々な状況で使いまわすことが出来るようになります。

コンテンツをサービスとして考える

政府のコンテンツとデータは、APIから利用できるようにすることで、その価値が高まります。これは以前政府がGPSと天気情報を一般に公開した時に、数億ドル規模のビジネスが生まれたことにも見ることができるでしょう。

政府はコンテンツとデータを構造化して設計し、サービスとしてAPIを通して公開することで、セキュリティと極秘情報を守りながらより多くの人へコンテンツを届けることができるようにしています。

誰にでもできます。今すぐ始めれば

アメリカ政府のゴールはパンフレットやハンドブックを作ることではありませんでした。もちろんWebサイトをやモバイルアプリを公開することでもありません。目的としたのは、ただアメリカ国民へ情報を届けるということだけでした。

政府の仕事は、どのようなフォーマットでも国民が必要な情報にアクセスできるようにすることでした。どんなデバイスを使うかは私達ユーザーが決めます。情報を提供する側は、デバイスを強制することは出来ないのです。

これはアメリカ政府だけでなく、どのような企業にも当てはまります。既に人々はモバイルデバイスを使って企業のコンテンツへアクセスしており、その数は年々増え続けています。もしそのコンテンツはモバイルで見ることが出来なければ、それは大勢の人にとっては見えないものと同じなのです。

今からでも遅くはありません。コンテンツをモバイルデバイス向けに最適化するために、今すぐ動き出しましょう。

Translated with the permission of A List Apart and the author[s].