コンテンツ オーディット:コンテンツの理解を深める方法

この記事はSara Wachter-Boettcher著「Content Knowledge Is Power」の抄訳です。
This article is a translation of "Content Knowledge Is Power" By Sara Wachter-Boettcher.

現在では数え切れないほどの企業が10年から20年分のWebコンテンツを持っています。何度も行なわれたWebサイトリニューアルの中で棚の奥深くにしまわれたもの、サブメニューのサブコンテンツとして行き場を失ったもの、CMSのビジュアルエディターで作成された過剰なHTMLに埋もれたものも含めて、膨大な量のコンテンツがあるでしょう。

このようなコンテンツの状態を「散らかっている」と感じるでしょうか? 実際は散らかるどころの話ではなく、こういった古いコンテンツはリニューアルプロジェクトの終盤で顔を出し、新しいデザインやコンセプト全てを台無しにするようなことがよくあります。

しかし、前もって既存のコンテンツへの理解を深めておけば、それら古いコンテンツを新しいページに組み入れることが可能になるでけでなく、何に対してデザインすべきかという実際のシナリオを意識することで、デザイン全体がより力強くなり、陳腐化したコンテンツを排除することも可能になります。

今回は古いコンテンツと敵対するのではなく、うまく利用する方法を紹介します。

「知らないこと」の害

新しいプロジェクトに入ると、コンテンツを深くまで理解することを避けがちです。そうでなくても、デザイナーは常に変わり続けるスクリーンサイズ、タッチ操作、ジオロケーションやバッジでの飾りつけといったことをデザインする必要があり、これらはとても多くの時間を使うものです。

しかし、もしコンテンツパリティ(コンテンツ等価性:あるWebサイトが提供する情報は、モバイルやデスクトップといったデバイスに関わらず、常に同じものであるべきとする「One Web」コンセプトの1つ)が問題になる場合、いつかはWebサイトの綺麗な表面の裏に潜む、雑多なコンテンツと向き合わなければならない時が来ます。(そしてコンテンツ等価性は、主にインターネットをモバイルデバイスから利用する「増え続けるインターネットマイノリティ」を考えると、どのプロジェクトでも検討すべき課題でしょう。)

その理由は、デザイナーが考えもせず、デザインの対象としなかったコンテンツが必ずあるからです。そして、そのようなコンテンツでもどこかに入れなければいけません。そしてほとんどの場合、それは明らかに場違いな場所にレイアウトされるか、古いページのままリンクだけ張られるような結果となります。

ナビゲーションについて考えて見ましょう。ブラッド・フロストが書いているとおり、小規模のWebサイトの小さいスクリーン用のナビゲーションでも、デザインするのは難しく、工夫が必要なものです。

しかしさらなる問題は、古いコンテンツの扱い方を事前に検討しなかった場合、せっかくのデザインが全く効果を発揮しなくなる可能性があるということです。例えば2階層のナビゲーションしかないサイトに、実際は4階層のコンテンツがあったり、下層コンテンツにアクセスする方法がテキストリンクのような見つけにくいものしか無かったり、検索からしかアクセスできないようなコンテンツが存在したりします。

このような問題を避けるために、良い方法があります。

問題の中心を探る

マーク・ボルトンは「コンテンツアウト デザイン」の中で、スクリーンサイズを意識するのではなく、コンテンツが自然に収まることを第一にデザインすべきだと書いています。

しかし、もしWebサイトに何百、何千ものURLがある場合、「どのコンテンツを使用してデザインすべきか?」という問いに答えなければいけません。無限の人的リソースを使って無限にレイアウトを作るのでない限り、代表的なコンテンツを複数選んで、そのコンテンツに合うようにデザインするでしょう。

では、どのコンテンツが代表的なものなのか、どうしたらわかるのでしょうか? そのためには、コンテンツのサイズ、スコープ、構成、内容を理解する必要があります。つまり、コンテンツオーディット(またはコンテンツ監査)を行なう必要があるのです。

コンテンツオーディットは10年以上前から提唱されてきました。ジェフリー・ビーンは2002年のAdaptive Pathでコンテンツオーディットについて書いており、その時は「思考が麻痺するほど詳細な、Webサイトコンテンツの探求」と呼んでいました。当時、人々は静的なWebページ制作から、CMSなどのシステムを利用したWeb制作へ移行し始めており、その時に間に入ってコンテンツを整理し管理する人が必要になったのです。

それから10年以上たった今、コンテンツオーディットは、少し違う方法でですが、以前よりさらに使えるツールになりました。コンテンツオーディットはWebサイトの探求を目的とするだけでなく、コンテンツの本質に繋がる入り口にもなったのです。

コンテンツオーディット:何を見るべきか

コンテンツオーディットでは一般的に、何を学び、学んだ情報で何をしたいかによって、どんな種類の調査を行なうかが決まります。ある調査ではブランドとその声を対象にするでしょうし、他の調査ではコンテンツのクオリティとROT(Redundant, Outdated, Trivialの略。冗長で古くてつまらない、つまり使えないコンテンツのこと)の選別にフォーカスします。

このようなアプローチは間違っていませんし、多くのメリットがありますが、もしコンテンツに柔軟性と適用性を加えたいなら、コンテンツを1ページずつ見ていくのではなく、コンテンツ全体の「パターン」を見つける必要があります。

答えなければいけない質問は簡単で、「何を公開しているのか?」ということです。もし答えが「ページ」であれば、もう一度ページを見てみましょう。コンテンツはどんな形をしているか? コンテンツに不可欠なものは何か? コンテンツは、インタービュー、特集記事、商品紹介、人物紹介、レシピ、短編小説、ビジネス文書などどんな種類のものか? このような質問はコンテンツを形作る個々の要素を理解するのに役立ちます。

この作業をする時、ユーザーのメンタルモデルに合わせてコンテンツのストラクチャモデルを作りましょう。メンタルモデルは、ユーザーが見ているものをどのように知覚し、その意味をどのように理解しているかを表すものです。

例として、私が最近携わった大手企業のWebサイトリニューアルプロジェクトでの話を紹介します。1,2個の小さなサイトをレスポンシブデザインで作った後、顧客がバグを見つけ全てを作り直すよう要望してきました。問題は、既存のWebサイトには数え切れない程のサブドメインやリダイレクトがあり、何千ものページがレスポンシブデザインに全く対応できないような状態だったことです。

私達が最初にした事は、Webサイトを深く掘ることでした。古すぎて忘れ去られたテンプレートやコンテンツを全て洗い出し、ドキュメント化するためです。

最終的に、その企業の全てのコンテンツをカバーするのに十数個のコンテンツタイプが必要でしたが、私たちのオーディットは多くの点でコンテンツの本質を明らかにするのに役立ちました。もしコンテンツオーディットでそのような発見が無かったら、それはコンテンツが目的に合致していない可能性があります。そして、そのようなコンテンツはすぐに削除を見当すべきでしょう。

今持っているコンテンツを全て洗い出したら、不要なコンテンツを取り除き、コンテンツ全体からパターンを見つけ出します。またこの時、それぞれのコンテンツタイプはどのような属性や特徴を持つべきかという点についても決めておきましょう。記事コンテンツは日付を含むか? 記者名は必要か? 画像については? 特集記事、タイムライン、引用などのコンテンツは何を含むべきか? この作業を行うことで、形を持たなかったページ(カレン・マクグレンは愛情を込めて「blobs」と呼びましたが。)に、意味と相互関係を与えることができます。
※「blobs」はBinary Large OBjectsの略。ここでは人間が理解できない巨大なバイト列データの意。

Content-model1
このコンテンツモデルは「レシピ」コンテンツタイプの属性を表したもので、レシピがより広いシステムの中で、どこに位置するかを示しています。

ここで追加されるコンテンツタイプの構成要素は、そのコンテンツが意味と目的を達成するために、どこに、どのように表示されるべきかについて、新しいオプションを提示します。

新しいレスポンシブデザインのWebサイトを構築したり、複数のWebサイトを同時に公開したり、トップページのためにコンテンツの一部を抜き出したり、コンテンツを再利用して新しいアプリで使ったり、サードパーティのコンテンツのまとめを作ったり。どのコンテンツをどんな目的で使う場合でも、このようなコンテンツタイプと属性を含むモデルを作ることで、どのコンテンツがどこに、どのように、いつ表示されるのが一番良いかが理解しやすくなるのです。

コンテンツオーディットのためのツール

コンテンツオーディット自体は新しいものではありませんが、そのために使われるツールは最新です。最近、私はContent Analysis Tool(CAT:コンテンツ分析ツール)を使って最初の分析レポートを作るようになりました。このツールは、数ドルのコストでWebサイトにある全てのページのコンテンツに関する詳細なレポートを作成してくれます。

CATのWebインターフェースを使用して、ページのタイプやタイトル、概要、画像や<h1>タグのコンテンツまで記述された詳細なレポートを見ることが出来ます。ヘッドラインを読むだけで、最低でもそのページが何について書かれているのかを知る手掛かりを掴む事はできるため、特にコンテンツが乱雑に配置されているようなWebサイトを評価する時に役立つでしょう。

下のイメージがCATを使って表示したSmashing MagazineGuidelines for Mobile Web Developmentのレポートです。

CAT-Tool-Example-Excerpt
CATレポートではページのサムネイルとコンテンツに関するいくつかのデータが表示されます。スクリーンショット全体から、表示される全てのデータを見ることができます。

ページのスクリーンショットやリンクのリストといったCATの機能は個々のページの分析をする時に役に立ちますが、私はよくCATのレポートをCSVファイルにエクスポートして使っています。ファイルは以下のイメージのような構成で、1つのURLの情報が1つの行に表示されています。

CAT-CSV-Example-Excerpt
CATは全てのページの詳細情報をCSVファイルとして出力することもできます。スクリーンショット全体から全ての情報を見ることが出来ます。

ただし、このツールも完璧ではありません。例えば、ファイルは存在しているがリンクが張られていないようなページはCATも無視しますし、ヘッドラインに<h1>以外のタグ(例えば<h2>など)を使っている場合もデータが取得されません。

このツールが得意なのはWebサイト全体のスナップショットを素早く把握できる、という点です。そのため、私はエクスポートしたCSVファイルを使って次のようなことを行なっています。

  • コンテンツのランキングや、そのコンテンツを削除するかの判断メモなど、個人的に必要なフィールドを追加します。
  • フィルターとソートを使って様々な視点(例えばコンテンツが表示されている場所など)からコンテンツを把握できるようにします。
  • そのプロジェクトで設定する定性的な評価基準に沿ってコンテンツを評価し、ランク付けします。
  • コンテンツタイプや構造のパターン、他のコンテンツとの関係性などをメモします。
  • そのコンテンツがメタデータとして持つべき情報があれば追記します。
  • Excelのピボットテーブル機能を使ってデータをまとめて分析し、コンテンツ全体の流れを把握できるようにします。

これで個々のページレベルの詳細を見ることも、大きい視点からパターンを見ることもできるようになり、構造的な改善案、CMSの修正、メタデータのスキーマなどといった、コンテンツの質や柔軟性を高める提案を行なえるようになります。

私がCATを好きな理由は、それがコンテンツストラテジストによって、コンテンツストラテジストの為に作られたツールで、常に機能改善が行なわれているからです。しかしコンテンツ分析ツールはCATだけではありません。似たようなツールでSEOmozというもの(どちらかというと派手なレポートが売りのツール)もありますし、使っているCMSによってはCMSからエクスポートできるレポートを使うこともできるでしょう。

どのツールも生のデータを効率的に集めるのに非常に役に立ちます。ただし、この作業は初めの取り掛かりだということは忘れないでください。どんなツールも人間がコンテンツに目と思考を集中する作業に取って代わることは出来ないのです。

規模に左右されないコンテンツ

今までコンテンツオーディットの方法を紹介してきましたが、コンテンツオーディットにのめり込む必要は一切ありません。もちろん、Excelやピボットテーブルに嵌りすぎるのは危険です。(もちろんそうなっても全然問題無いのですが。)ただ、多くのコンテンツストラテジストは、オーディットで得た知識を使って出来ること、つまり規模に左右されないデザインシステムを作ることが出来る、という点は必ず好きになると思います。

例として、比較的大規模にレスポンシブデザインを採用したWebサイトを見てみましょう。主に大学等の高等教育の分野では、ノートルダム大学のようなアーリーアダプターがレスポンシブデザインを採用したところ、すぐに多くの他の大学がそれを真似した、といったことがありました。

これらのWebサイトで共通していることは何でしょうか? 2つあります。1つは複雑なコンテンツが多くある中で、レスポンシブデザインは一部のページにしか適用されていないという点です。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)では、ホームといくつかの主要なページはレスポンシブデザインになっていますが、他の深い階層のページはそうなっていません。

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UCLAのトップページはレスポンシブデザインですが、ランディングページなどの他のページはレスポンシブではありません。拡大イメージ

なぜこれらのWebサイトでは全てのページにレスポンシブデザインを適用しなかったのでしょうか? 理由はおそらく、それには多くの時間と労力が必要になるからでしょう。ニシャント・コザリーは、2012年に公開した記事「Story of Microsoft’s new responsive home page」の中で次のようにまとめています。

「Microsoft.comのチームは、レスポンシブなイメージやコンテンツを100以上の国に向けてローカライズするために、ツールやガイドライン、その他のプロセス全てを作り上げました。彼らはコンテンツストラテジストがWebサイトのコンテンツをプログラム出来るように、CMSを作り上げたのです。」

言い換えると、Microsoft.comチームにとってホームページはただのホームページでは無く、レスポンシブデザインを実現するためにコンテンツと運用プロセス全てを変える必要があったということです。

しかし、メディア業界のように大規模なWebサイトをレスポンシブデザインで構築した例もあります。TimeやPeople、Boston Globeといった大企業では、マイクロソフトや大学と同じかそれ以上のコンテンツを管理していますが、長年完璧に管理されたコンテンツを制作してきた出版社として、このような企業は自分達が何を出版しているのかを理解しています。それは社説か、特集記事か、ニュースのまとめかといったことには左右されません。そのため、このような企業が公開するコンテンツは全て体系だっており、レスポンシブデザインパターンを全てのコンテンツに適用するのが比較的容易になるのです。

決断が必要なとき

もしあなたが大きく散らかった、巨大なコンテンツを分析し、新しいWebサイトにどのように活用できるか理解しようとし始めたとき、出来ることが無数にあることに気付くでしょう。コンテンツの構造を変えたり、編集作業を改善したり、CMSをカスタマイズしたり。このリストに終わりはありません。

でも、それでいいのです。

自分が何をしているのかという現実を理解したとき、自分のしている何を優先的に行なうべきか(そして何を行なうべきではないか)がわかるようになり、賢いトレードオフが選択できるようになります。例えば、今時間を使うことで後で価値のある柔軟性を実現できるようになるか、どの程度のレベルのプロセスなら今のスタッフの作業を向上させられるか、またはコンテンツにはどの程度の柔軟性が求められているのか等といったことに結論を出すことができるようになるのです。

もちろん正しい答えというものはありません。私達に出来ることはプロジェクトやチーム、ユーザーの間で正しいバランスを見つけることだけです。そして、そのバランスが他のどんなものよりも私達の役に立つということがわかるようになるでしょう。

コンテンツはチーム全員の仕事

終わりの無い大量のコンテンツを扱うのはデザイナーや開発者、プロジェクトマネージャーの仕事では無いと思うかもしれません。しかし、本来はプロジェクト全体で取り組むべき仕事なのです。より深くコンテンツを理解しようとすることで、他の仕事の質も高くなるでしょう。またプロジェクトが期限に間に合わなくなるのを防ぎ、実際にコンテンツを入れた時にデザインが壊れるといったことも無くなり、リリース後もスムーズに運用できるようになるでしょう。

そして何よりも、ユーザーが必要なコンテンツにアクセスできるようになります。いつ、どのようなコンテンツでも見つけることができる、そのようなWebサイトが、コンテンツを深く知ることで実現できるようになるのです。