コンテンツストラテジストと何でも屋

この記事はRachel Lovinger著「Tinker, Tailor, Content Strategist」の抄訳です。
This article is a translation of "Tinker, Tailor, Content Strategist" By Rachel Lovinger.

コンテンツストラテジーの専門家達は、この分野に関する様々なことを定義し、戦略や戦術を開発し、関連分野とコラボレーションする新しい方法を見つけてきました。これらは全て、新しく始まったばかりの分野にとって大切なことですが、前に進み続けるにはある問いに答えられなければいけません。

それは、「コンテンツストラテジーを極めるとはどういうことか?」という問いです。

私達はコンテンツ製作者のビジョンに命を吹き込むために、コンテンツやコンテンツ同士の関係を戦略的に考えられなければいけません。

コンテンツストラテジーを極めると、単なるエディトリアルストラテジー(編集戦略)を超えた視点でコンテンツ戦略を考えることが出来るようになります。そこには、関連する全てのチームとのコミュニケーションも含まれます。もし他チームと目指すものが違っていた場合は、持てる全ての交渉術を駆使し、コンテンツの意図を他チームにも伝わるように説明し、普段全く関わりの無いチームの人々を説得しなければいけません。そして、そのためには高度なコンテンツストラテジースキルが必要になります。

コンテンツストラテジーの基本:編集者でない人のためのエディトリアルストラテジー

コンテンツストラテジーが世の中に出始めた頃、よく編集作業のことだと勘違いされていました。編集者や編集作業には何の恨みもありませんが、このような勘違いをする人に会うと内心がっかりしたものです。編集作業はコンテンツストラテジーという仕事のごく小さな部分にすぎず、それがコンテンツストラテジーの中心的な仕事ではないのです。

しかし最近、コンテンツストラテジーと編集との関係性について、少し見方を変えました。私達はいつも「全ての人は編集者だ」と言っているのですが、増え続けるコンテンツストラテジーのニーズの要因の一つは、今までコンテンツを作ったことの無かった組織が、編集者としての視点を持つ必要が出てきたためだと考えるようになったのです。このような組織は、どうやってコンテンツの元を探し、編集し、制作し、維持していくかを知りたいと思っており、そのために担当者の採用やチームの管理、ワークフロー、トーン、品質、タイミングから、無駄なコンテンツの取り扱い方法まで、様々なアドバイスを求めているのです。

そのため今後10年間は、「編集」がコンテンツストラテジーに求められるものの中心になるでしょう。でもこれは、仕立屋が若い見習いにボタンの付け方を教えるのと同じで、極めるということには繋がらないものです。

コンテンツストラテジーの応用:説明と交渉

コンテンツストラテジーはビジネス、編集、ユーザーの期待、デザイン、コンテンツ制作プロセス、そしてテクノロジー全てのバランスをしっかりと取らなければいけません。これらの要素は全て、コンテンツストラテジーに命を吹き込むのに必要不可欠です。もしコンテンツをマルチプラットフォーム向けに公開したいなら、それができるシステムが無ければ何も始めることができないでしょう。それと同じように、公開に時間がかかりすぎるようなシステムでは、どんなコンテンツプランも役に立ちません。

コンテンツストラテジストは、どうしてテクノロジーやスタッフのスキルなど、私達がコントロールできそうもないもののバランスを取らなければいけないのでしょうか? それは、コンテンツは全ての要素に共通するもののため、コンテンツに対するアプローチをコントロールする方が、新しいテクノロジーやスタッフを採用するよりも簡単なことがよくあるからです。コンテンツストラテジストは、プロジェクトの全てのフェーズにおいてコンテンツを啓蒙しなければいけません。他のチームが主導権を握ることもあるかもしれませんが、それは特定の範囲内で、限定されたフェーズにおいてのみでしょう。コンテンツストラテジストは、コンテンツに対するビジョンが、ビジネスコンセプト定義からデザイン、実装、運用、そしてその先まで、一貫して変わらないようにする必要があります。

ケーススタディ

最近あるプロジェクトで、いくつかのビジュアル要素が違う2パターンの記事を作ったことがありました。ロゴや背景画像、ヘッドラインの色やボタン等が違うだけで、他は全て同じものです。エンジニアチームはそれを2つのテンプレートとして実装し、プルダウンメニューで選択できるようにしました。

その後、また他のパターンの記事を作りました。今回は細かい色以外は既存のテンプレートの1つと全て同じだったため、エンジニアチームはそのテンプレートにチェックボックスを追加し、チェックされた時に新しいスタイルの記事が選択されるようにしました。エンジニアチームとしては、既に出来上がったテンプレートを変更する方が、新しいテンプレートを作るよりもプログラミングやテストの時間が短縮できると考えたのです。しかし、CMSのユーザーはまずプルダウンでテンプレートを選択し、その後チェックボックスにチェックするかしないかを判断しなければならなくなり、コンテンツ製作者にとっては混乱とミスの元になるようなものでした。

エンドユーザーを代弁する

私はそのエンジニアチームの判断に反対しました。コンテンツ製作者達は既に新しいCMSに慣れるのに必死だったので、新しい問題を押し付けたくなかったのです。テンプレートを選択する方法がいくつもあるような、わかりにくい方法は取りたくありませんでした。エンジニアチームが数時間節約するために、コンテンツ製作者は何年もそのシステムを使い続けなければいけなくなるのです。そうエンジニアチームに伝えたところ、「そう言われると思ったよ」と言っていました。

コンテンツに対するビジョンを保ち続けるのは簡単なことではありません。そして時には妥協も必要になります。しかしそれでも、ビジネス、編集、ユーザーの期待、デザイン、コンテンツ制作プロセス、そしてテクノロジーの全ての要素を最適化し、それぞれが調和する状態を目指すべきです。そのためには様々なことを同時に考え、進めていかなければいけませんし、目指すものの違うステークホルダー同士の調整も行なわなければいけません。

コンテンツストラテジストの説明者と交渉人としての役割は、私達の作る成果物によって、このようなステークホルダー同士のコミュニケーションギャップを埋めることです。以下がその例です。

  1. コンテンツ一覧は、デザイナーとビジネスステークホルダーが、過去のコンテンツと編集時の要点を理解するのに役立ちます。
  2. コンテンツ分析と検索マトリックスは、編集者とビジネスステークホルダーに対し、どのコンテンツがユーザーの興味を惹き、またどのコンテンツがユーザーが探しても見つけられないものなのかを示します。
  3. 編集スタイルガイドは、編集チームが明確で一貫した声やトーンを使用し、ブランドやビジネスゴールに沿ったコンテンツを作るためのスタイルを定義します。

コンテンツストラテジーはコンテンツの声やその制作プロセスを定義する以上のものです。私達はまずコンテンツ製作者を支援しますが、全てのステークホルダーと一緒に、コンテンツのビジョンがプロジェクト全体で維持されるための努力もしています。コンテンツストラテジーを「極めた」と言う前に、私達はこのようなことが出来るようにならなければいけません。

コンテンツストラテジーを極める

それでは極めるとはどういうことなのでしょうか?どのような分野でも、極めた人は卓越した技術と、それをいつ使うべきか、ということを知っているものです。コンテンツストラテジーには編集・メッセージ中心のスタイルや、技術・構成中心のスタイルなどがありますが、コンテンツストラテジーを極めた人は、コンテンツをあらゆる角度から見ることができなければいけません。メッセージアーキテクチャとメッセージプラットフォーム、コンテンツのミッションとコンテンツマネージメントといった、異なる視点でコンテンツを評価するスキルが要求されます。もちろん私達の仕事はとても細かいものですが、全体的なコンテンツのビジョンや、プロジェクト全体がそのビジョンに沿って動くために何が出来るかを考えるために、大きな視点に立って作業をするのが大切です。

コンテンツストラテジーでは、説明力と交渉力が核となるスキルです。それがあるからこそ、様々なチーム間のコミュニケーションを促進し、コラボレーションを生み出すことができるのです。また、コンテンツストラテジストは代弁者であり、優れた調整能力を持つスペシャリストです。私達はエンドユーザー、ビジネスユーザー、ステークホルダー、そしてコンテンツビジョンそれ自体を代弁し、あまり関わりの無いチームへ様々な働きかけをしなければなりません。

コンテンツストラテジーはまだ新しい分野のため、何を重要視するかは完全に定義されていません。この記事で提案したいくつかのスキルを含め、今後も様々ななアイデアが提案されることを期待しています。

Translated with the permission of A List Apart and the author[s].