習慣から生まれるユーザー行動

この記事はCatriona Cornett著「How Habits Can Impact User Behavior」の抄訳です。
This article is a translation of "How Habits Can Impact User Behavior" By Catriona Cornett.

チャールズ・デュヒッグは「The Power of Habitsという著書の中で、習慣がどのように形作られ、また習慣を変えるのにどの程度の努力が必要かを説明しています。その中では、デューク大学で行なわれた2006もの研究が参照され、人が1日で行うことの40%は習慣であり、明確な目的をもって行なわれていないという結論を導き出しています。習慣は日常生活の様々な面に影響しており、それにはWebサイトを見たりアプリを使ったり、といったことも含まれています。習慣が与える影響を理解することは、ユーザーエクスペリエンスをデザインするのにも役に立つでしょう。

習慣のループ:The Habit Loop

デュヒッグは習慣が形作られるプロセスを単純な「Habit Loop」というモデルで表しました。

  1. 合図(Cue)は特定の方法で反応するよう脳に働きかけます。
  2. 反応は行動(Routine)を伴います。これは肉体的、精神的、感情的な動きを表します。
  3. 行動を行なうことで報酬(Reward)が与えられ、脳は更なる報酬を求めてこの習慣を繰り返し行うようになります。

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デジタルエクスペリエンスの習慣

ユーザーがWebサイトやアプリを繰り返し使うようになると、そこに習慣が形作られます。合図は特定の情報にアクセスするために、ユーザーに同じ場所を繰り返し見るよう働きかけます。もしユーザーが同じ行動を繰り返しとるようになれば、次にまた同じ状況になった時も自動的に同じ行動をとるでしょう。

オンラインでいつも同じような情報を見ているユーザーは、目的とするコンテンツまでの道のりを覚えているものです。このようなユーザーは論理的なコンテンツ構造を覚えているというよりは、リンクが画面のどの位置にあるかといったことにフォーカスしています。これはファーストフードのレジ担当者が効率的にレジを打つために、どのメニューの時は画面のどこを押すかを習慣的に学ぶのに似ています。

もうひとつの例として、Webサイトやアプリのログイン体験を考えてみましょう。もしログインボタンの見た目や場所がいつも同じなら、既に登録済みのユーザーは、他のコンテンツを無視して自動的にログインするようになるでしょう。ユーザーが毎回ログインに成功し、目的の情報を見ることができれば(前述の「報酬」です)、この行動は習慣化されて繰り返されるようになります。

ユーザーの習慣を見抜く方法

  • ユーザビリティテストか、コンテキストオブザベーションを実施する – これは、ユーザーがどのように目的の情報を探しているかを実際のユーザーに聞いてみる方法です。どのような時にナビゲーションメニューをクリックし、いつスクロールや検索をして目的の情報まで辿り着こうとしているか、しっかりとメモを取りましょう。この方法では、一般的なタスクでユーザーが感じる「合図」や「行動」を見つけることができます。
  • アクセス解析のレビュー – アクセス解析を使って、ユーザーがどのようなリンクを経て目的のコンテンツまで辿り着いたかを調査する方法です。見つかったリンク経路がずっと使われているものなのか、一時的なものなのかを見極めます。これは、習慣化された行動を見るためのものではありませんが、長い時間軸での行動傾向を見るのに役立ちます。

デザインリニューアルのリスク:習慣の中断

リピーターは、どこに目的のコンテンツがあるかを学んでいるため、その行動は習慣化されています。もしそのコンテンツが移動されたり削除されたりしたら、前回のアクセスで「報酬」を受け取っているユーザーは混乱してイライラするでしょう。全面リニューアルなどは、それがより良いサイトのためだとしても、ユーザーエクスペリエンスにとっては混乱の元となります。新しいデザインは基本的なタスクを難しくし、新しい習慣を身につけるようユーザーに強制することがある、ということは覚えておきましょう。

デザインリニューアルについては、ジェレド・スプールの「Extraordinarily Radical Redesign Strategies」という記事を読むこともお勧めします。

習慣を変える方法

デュヒッグは習慣を変える方法を比較的単純なプロセスで説明しています。

  1. 習慣を作った原因となる「合図」、「行動」、「報酬」を見つける。
  2. 「合図」と「報酬」はそのままに、古い「行動」を、新しい「行動」に置き換える

デジタルエクスペリエンスでは、ユーザーは「報酬」が受け取れないとすぐにイライラする傾向が強いため、習慣を変えるプロセスを実行するのはとても難しいものです。しかし、ユーザーの古い「行動」を新しい「行動」に変え、リニューアルがユーザーエクスペリエンスに与える影響を小さくするために役立つオプションもいくつかあります。

  • リニューアルを段階的に少しずつ行なう – 小さい変更を少しずつ加えていくことによってリニューアルの影響を小さくすることができます。
  • アクセス解析をモニタリングし、リニューアルの影響を調べる – 段階的なリニューアルを行なうメリットは、どの変更がネガティブな反応を生んだかわかりやすくなるところにあります。アクセス解析をモニタリングして、新しい「行動」がリニューアルの目的(コンバージョンの増加など)の邪魔をしていないか確認しましょう。
  • 簡単なチュートリアルを使って新しい「行動」を紹介する – ヘルプのようなコンテンツでリニューアルの内容を説明するのは理想的とは程遠いですが、邪魔にならないよう変更点を簡単に紹介する方法は、ユーザーの混乱を和らげるのに役立ちます。
  • 新しい「行動」は今までと同じ「報酬」につながる – ユーザーに何か新しいことをさせる前に、それによってどんな「報酬」が得られるのかわかるようにしましょう。「行動」と「報酬」の両方を一度に変えるのは、「行動」だけを変える時よりもはるかにユーザーを混乱させます。
  • 他企業との違いを表現するためだけにリニューアルしない – リニューアルは明確な目的を持ち、ユーザーが納得できるような価値を提供できるものでなければいけません。ユーザーの習慣を変えなければいけないほどインパクトのあるエクスペリエンスの改善やビジネスゴールがあるか、事前にしっかり検討しましょう。