シンプルなことの複雑さ

この記事はJay Selway著「The Complexity of Simplicity」の抄訳です。
This article is a translation of "The Complexity of Simplicity" By Jay Selway.

私の17年のキャリアの中のどのプロジェクトでも、ある時になると誰かが必ず「もっとシンプルな方がいいよ」と言う瞬間があります。

しかし「シンプル」とは実際どういう意味なのでしょうか?

複雑じゃない、エレガントな、手を加えすぎていない、等々同じような意味の言葉はありますが、なぜそれがシンプルなのかを説明できる人に会ったことがありません。「シンプルさ」というのが本質的に主観に基づくものなので、それを達成するのはとても難しいようです。

ただ幸運にも、エクスペリエンス・デザインの知識が、なぜシンプルさが必要なのか、そしてどうやって達成できるのかを理解するための道具を提供してくれました。この記事では、その方法について説明します。

「シンプルさ」の10の原則

まず私が今までに見つけた、シンプルさを保つための10個のルールを紹介します。

1. 期待に応える

もし誰かがあなたの製品を買ったり、Webサイトを訪れたりしたら、その理由を明確に理解しましょう。また同時に、ユーザーにも正しい場所に来たんだと、すぐにわかってもらえるよう工夫します。(例:http://telly.com/mobile

2. ユーザーに多くのことをさせない

人が一度に(意識的に)扱える情報はとても小さなものです。そのため、すぐにポイントを理解してもらえないと、ユーザーの意識は別の方へ向いてしまいます。ユーザーに多くの情報を与えずに引き止めておくテクニックのひとつに、プログレッシブ・ディスクロージャー(徐々に公開するという意味)というものがあります。これは、情報を少しずつ提供していくことで、ユーザーを混乱させることなく引き止めておくことができます。ここに素晴らしい例があります。

3. 1度に多くの選択肢を提示しない

これは直接#2に関連するものです。いくつかの研究で、ユーザーに多すぎる選択肢を与えた場合、何も選択しないということがわかっています。そのため、時には機能を追加するより削除した方が良いのです。最低限の機能しか持たない製品を市場に出し、それを後で改良するか、もしくは他の製品のために完全にゴミにするか決めるとしたら、どうするでしょうか? 定期的に機能を追加していくのはその製品が絶対に完璧にならないことしか保証しませんし、その間、ユーザーは混乱し続けることになるのです。

4. 専門用語や機械的な言葉は使わない

ユーザーには話す時は、実際に人に向かって話しているように話しましょう。そして専門用語は絶対に使わないことです。例えば、問い合わせフォームの「Email」というラベルに、もう少し人間味を持たせたらどうなるでしょうか? Wufooの問い合わせフォームはこの点でとても優れています。「あなたと連絡が取り合えるよう、Emailアドレスを入力してください。大丈夫、この情報は私達にとってとても大切なので、絶対に売ったり乱用したりしません。ご安心ください。」

5. ユーザー層によって出来ることが違う、ということを知る

ジェニファー・ロマノ博士が行なった、ユーザーの年齢別にWebサイトのユーザビリティを測った研究によると、年齢の高いユーザーはWebサイトの端にあるコンテンツを無視する傾向にあることがわかりました。年齢によってユーザーの能力が変化することを理解し、あなたの製品が対象ユーザーの年齢を考慮しているか確かめましょう。

6. ビジュアルは明確に

ビジュアルデザインが明確であることは、シンプルさにとって一番大切なことです。ユーザーは瞬時にあるものの信頼性を評価するので、ビジュアルが明確でないとすぐに混乱します。しかし、あるものがシンプルに見えるということと、それがシンプルであるということは、全く別物だということは覚えておいてください。

7. 問題を理解する

この点はマーズ・クリステンセンがうまく表現しています。「もし一歩下がってその問題を見た時、何か良い感じがしなければ、シンプルな解決策を見つけられるほどその問題を理解していないということ。もし問題が理解できなければ、それを解決することは出来ないでしょう。」

8. 確実にテストする

もし誰かがテストするのをためらったとしたら、その人は臆病か怠け者か横柄な人なのでしょう。(そしてこのような人に予算を握らせてはいけません。) 創造力と客観性は通常相容れないので、創ったものはユーザーとして必ずテストしましょう。

9. 利用される環境や状況を理解する

人が何かを使う時、いつ、どこで使うかによって使い方が大きくかわります。例えば、ユーザーはあなたの製品を急いでいる時に使ったり、iPhoneで、もしくは友人と共有しながら使うかもしれません。また1回目と2回目では使い方が違うかもしれません。使う時間、反復、文化的なニュアンス、場所など、製品がどのような状況で使われるかを理解することはとても重要です。

10. 「使える」以上を目指す

ただ何かタスクが行なえるからといって、それが快適だったり簡単だったりすることにはなりません。タスクが行なえることを強調しすぎて、ユーザー体験をないがしろにすることがないよう気をつけましょう。

どうしたらシンプルにできるか?

誰でもシンプルなものを使いたいと思っていますが、シンプルさはとても捉えにくいものです。シンプルにする方法を探すには、プロジェクトの進め方に目を向けてみましょう。要求とプロセスをコントロールすることで、良い結果を出すことが簡単になります。

The ROI of User Experienceというビデオで、スーザン・ウェインシェンク博士は、プロジェクトが失敗する3つの理由を説明しています。(またUXの価値についても非常にわかりやすく説明していますので、このビデオは必ず見てみてください)。次にこの3つ(と私が付け加えたもう1つ)の問題と、どうしたら対処できるかを説明します。

1. 明確なコミュニケーション

明確にコミュニケーションをとらないと混乱を招きます。プロジェクトリーダーはコミュニケーションプロセスを確立し、チームがそれに従うようにしましょう。またプロジェクトの決定事項は常に記録として残します。

2. 成功をビジュアル化する

プロジェクトの初めに、リリースの成功がどのような感じかを想像してみましょう。次のような質問に答えていくとわかりやすいかもしれません。

  • どのようなビジネスゴールを達成しようとしてるか?
  • ユーザーは誰で、ユーザーの目的は何か?
  • この製品は実際に何をして、何をしないのか?

3. ステークホルダーと協調する

  • 問題は全て把握しましょう。細かいところまで気にするのがあなたの仕事です。あなたがしなければ、他に誰がするのでしょうか?
  • 技術的な負債は残さないようにします。クオリティの低いシステムを作って後で改善させようとしても、将来シンプルなソリューションを作ることはできません。
  • 肥大化させないよう注意しましょう。ユーザーが使わない、必要としない機能は無駄なだけです。なるべく簡素化しましょう。
  • 関係者の声はきちんと聞きましょう。プロセスの早いうちから関係者を全員巻き込み、同じ目標に向かってコミュニケーションを取り続けることが、良い結果を生む一番の方法です。

4. 他の人の意見を大切にする(自分だけで全てをしようとしない)

私は音楽をするのでたまに曲を作ったりするのですが、初めはすごく良くできたと思った曲でも、2日も経つと初めのころの興奮はどこかにいってしまいます。初めての経験はいつもエキサイティングですが、徐々に感動が薄れていき、最後には興味をなくしてしまいます。アイデアがうかんだらすぐプロトタイプにして、他の人に見せてみましょう。

なぜ? の繰り返し

シンプルさを実現するには、繰り返し次のような「なぜ?」という質問に答えていくのがいいかもしれません。

  1. なぜこれを追加するのか?
  2. なぜこれを削除するのか?
  3. なぜユーザーはこれを気にするのか?
  4. なぜユーザーはこれを共有するのか?
  5. なぜユーザーはそれをするのか?
  6. なぜユーザーはそれができるのか?
  7. なぜユーザーはそれをし続けるのか?
  8. なぜこれをテストしていないのか?

一番小さく細かいことが、一番大きな違いを生みます。もし行き止まりに突き当たったら、リーダーに物事を決定してもらって先に進みましょう。その決定が正しかったかは、後でいつでも確認することができます。

シンプル

複雑にするのは簡単で、シンプルにするのは大変です。でもしっかりとフォーカスし、コミュニケーションをとり、明確さと大胆さがあれば、それほど難しくはないのかもしれません。

最後に、アインシュタインはこう言っています。「頭の良いバカな人は、大きくて、複雑で、乱暴なものなら何でも作ることが出来る。その反対方向に進むには、少しの才能と、多くの勇気が必要だ。」