若いデザイナーへの手紙

この記事はCennydd Bowles著「Letter to a Junior Designer」の抄訳です。
This article is a translation of "Letter to a Junior Designer" By Cennydd Bowles.

*訳注:原文はとても美しい文章で書かれています。是非原文もあわせてご覧ください。

認めよう、僕は君の才能を怖がってる。君の仕事は鮮やかで、想像力に富んでいて、僕が同じ年齢の頃に書いていたスケッチなんかよりよっぽど素晴らしい。僕が今までどうにか学んできたことなんて、君にはほとんど役に立たないだろう。いつの日か、君は僕より優れたデザイナーになる。

でも今はまだ、僕は自分の唯一の強みにしがみついていることにしよう。僕が君より価値を出せること、結果を出す力のことだ。鉄より硬いCEOとの議論に立ち向かったり、リスクや面倒事を何ヶ月も前に予想したりできる。デザイン的な賭け事では、いつも正しい色に賭けられるし、ステークホルダーは僕を信頼してくれている。

だからもし僕に付き合ってくれるなら、君が早く次の壁にぶつかることができるように、いくつかアドバイスしてみようと思う。

ペースを落とす

君は素晴らしい才能を持ってる。でも、それを証明しようと結論を急ぎすぎることがあるだろう。アイデアの実を枝から摘んで、熟すのを待たずにそのまま皿にのせるようなことをしていないだろうか。記録的なスピードで間違った答えを出しても意味がない。

きっと君の先生は、アイデアがクリエイティブにとっての宝だと教えてきただろう。アイデアが一番大変な作業だと。でも僕はその考えに反対だ。アイデアは信用できるものじゃない。絞りきった後に引き裂くものだ。僕らは遊び心のプロとして働ける恵まれた環境にいるのだから、正しく仕事をするために、自分のアイデアを分解し、更に良いものを生み出すために組み立て直せないといけない。

初めのうちはこのプロセスを機械的で奇妙に感じるかもしれない。でも時間とともにアイデアと繰り返しの境界がぼやけてきて、最終的に2つは1つになる。

だから、深く深く進んでいこう。無駄だとわかっていても、時間を贅沢に使って自分のアイデアを広げ、些細なことに注意を向けよう。そうすれば、より良い解決策が必ず見つかる。

よく考える

デザインはそれ自身を物語ると言うが、僕らの仕事のほとんどはその声を他の人に聞こえるよう手助けすることにある。説得力のある論理(君の仕事の「なぜ」の部分だ)が、優れたドキュメントを優れた製品に変える。

仕事をしていると、「なぜ全てのピクセルが君のデザインした位置にあるのか」としつこく聞いてくる人に会うこともある。もしまだなら、そのうち会うだろう。そういう人に対しても、きちんと説明できるデザイナーになる必要がある。全てのピクセルについて、だ。この線は何? それは定義します、それは区別します。でもなぜこの位置に? なぜこの色で? なぜこの太さで? 「見栄えが良いから」では十分ではないだろう。階層構造やバランス、形態を論理的に説明できる必要がある。言い換えれば、「見栄えが良いから」を難しい言い回しで説明しながら、ステークホルダー達に、君が自分の創作物の土台を理解していることを示さないといけない。

同じように、どんな代替案を却下したか、なぜそうしたかも説明する必要があるだろう。(そして、この作業を通して君が真面目に仕事をしているか、ただお気に入りのアイデアにしがみついているだけか、自分でわかるようになるはずだ。)

デザイナーにとっては政治的な話に聞こえるだろう。実際その通りだと思う。政治というのは単にチームや人々をある方向に導く作業のことで、ただ歳をとると、それだけ人と過ごす時間が増えるということだ。

情熱を和らげる

君の言葉は大切だ。だから感情に流されないように気を付けよう。情熱は有用だが、信念の強さを示すより、信念の裏にある証拠を示す方が効果的なことが多い。柔らかい言葉はリツイートの数は少ないかもしれないが、良い結果を生む。それが君の直感なら、これは自分の直感だとそのまま言おう。そのほうが正直だし、自分の知っていることだけを語ることで余裕が生まれる。

同じように、仕事へのアプローチも変わるだろう。今、デザインは痛みでしかない。世界に溢れる壊れたデザインを見ればわかるはずだ。くだらない製品、細かい間違い、走り書きのメモのようなデザイン。そんなくだらなさは絶対に無くならないが、時間が経つとそれとどう折り合えばいいかわかる。問題なのは、物事を変えることのできる君の力だ。世界に対して文句を言うことは誰でもできるが、少数の優れた人だけがそれを直すことができる。

しかし、そんな怒りにも似たエネルギーも時とともに薄れ、最後はどちらの戦いを選び、どちらを降参するかを選ぶことになる。最大の問題に引き寄せられていくということだ。この分野で経験を積むと、君の興味もツールやテクニックから、価値観や倫理観に移るだろう。この業界の歴史は教訓になるから、しっかり見ておくといい。結局、未来は時間と共に縮小し、最後は過去が自分の持つ全てになる。

また、君はそのうち自分で全部やるよりも、他の人が正しい結果を出せるよう助ける方が良いとわかるようになる。もちろん、それがリーダーシップと呼ばれるものだ。

最後に、デザインについて少なく考えた方が、良い結果が出せるということに気付くかもしれない。仕事と人生は、部分的にはきっちり分かれているが、人生経験が仕事を形作るという面も必ずある。だから、広く、賢い人間になってほしい。できる限り(きちんと考えて)旅行に出かけ、本を読もう。良い小説は他のデザイン本より多くのことを教えてくれることがある。共感や感受性、ずる賢さや理解力は、仕事人生をより良いものにしてくれるだろう。

でも君は頭が良いから、これが若いころの僕に向けた手紙だということには気付いていただろう。同時に、これは歳をとった自分の衰えに対する嘆きでもある。少し出てきた白髪と、よくわからない流行に対する不安だ。僕の歳の人間にとって、流行なんて少し馬鹿げて見えるが、結局は少し馬鹿げた業界だ。君もそのうち全てわかると思う。幸運を祈る。

Translated with the permission of A List Apart and the author[s].