コンテンツライティングとは考えること

この記事はSally Kerrigan著「Writing Is Thinking」の抄訳です。
This article is a translation of "Writing Is Thinking" By Sally Kerrigan.

コンテンツライティングとは難しいもので、他の人々に向かって書くときは完璧さへの期待、巧みな文法、そして漠然として不安のようなものが常につきまといます。小さなアイデアでも、それを言葉に書き出す時には、自分の内側を捻り出すようなことのように感じられます。

多くの人は、「でも自分はライターではないから関係無い」と思うでしょう。しかしライティングは何か特別なものではなく、もっと一般的な作業です。オンラインコミュニケーションのほとんどがテキストベースである現在では尚更でしょう。そして、あることについて書く時、人はいつもより賢くなります。例えば自分の仕事について何かを書くとしたら、よくある建て前のようなつまらないものは書かず、もっと内側の、本音の部分を書き出す必要に迫られるためです。

それは、もしうまく書ければ価値あるメッセージとなり、建て前で終われば雑音として残ります。

ライティングスキルは先天的なものではありません。多くの人はライティングは難しすぎると感じているようで、雑誌に寄稿したりブログを始めたいが、どこから始めたら良いかわからないと思っている人も多いようです。そのような人のために、この記事ではライティングがどのように行われ、どうやってうまくなれるかの方法を紹介します。

ライティングはつまらない

つまらないというのは退屈だという意味ではありません。記事などを書く時、初めにするのは書くことでは無いのです。ライティングはまず考えることから始まります。人は何かを読む時、同時に色々なことを考えていますが、ライティングも同じです。書くというのは言葉にすることでは無く、考えることです。よく考えられた記事と、ただ広告スペースを売るためにだけ書かれた記事の違いを見れば、このことがよくわかるでしょう。

自分の仕事のやり方を書く場合を考えてみましょう。直接経験から学んだスキルを書く時は、一度実際に紙に書き出してみます。そうすることで、ただなんとなく行なわれていた作業に声と方向性が与えられ、明確に形がつけられます。

仕事を説明をする時に言葉を選ぶということは、それを意図的に行っているということです。その仕事を行う理由や、どの決定がどんな結果に影響したかを理解しながら言葉を並べているでしょう。ライティングスキルは、このように深く考えを進めていくことで向上させることができます。

まとまらないアイデアから始める

考える時は、まずは紙にアイデアを書き出すことから始めます。書いている間は読み返さないようにし、どうしても読み返す必要があるなら翌日以降に行ないましょう。ただ何を言おうとしているかだけに集中し、メインアイデアを紙に落とし込みます。文が途中で終わってしまっても構いません。そのままにして次のアイデアに進みましょう。1つのアイデアについて色々な考えが浮かぶ時は、ひとまず簡単な言葉に言い換えて記述しておき、次に進みます。

言葉がうまく続かないような時も、ひとまず別の言葉に言い換えておきます。概要というのはつまりは「言い換え」です。言いたいことを単純な言葉に言い換えて書いていきましょう。この作業を行う時、最悪なのは曖昧な質問ばかり残ってしまうことです。例えば、多くのアイデアに「更に調査が必要」と記述されているような場合で、これは解決出来ない問題を残しただけで、アイデアを出し終えたということにはなりません。

この作業が終わった時、アイデアを書いた紙には多くの意味不明な言葉が書き散らかされ、脇には今日やる予定の用事がメモされているようなこともあるでしょう。とても誰かと共有できるようなものでは無いでしょうが、大まかな下書きが出来上がっていると思います。

このアイデア出しから書くことが始まります。全然かっこいいところは無いでしょう。実際、かっこいいと思えるのは最後の最後だけです。しかし、このプロセスは書くことに不可欠なのです。多くの意味不明な言葉はすぐに消されることになりますが、その中には必ず読者に伝えたいと願っているアイデアの核が含まれています。それを見つけましょう。

要点に近づく

旅行に行っている間、親戚に自宅を見てもらうという状況を思い浮かべて見ましょう。そのような時はきっと、旅行に行く前に一度親戚を家に呼んで、様々な雑談に花を咲かせながら、どこに水やりが必要な植物があり、どこに猫の餌が置いてあるか等を説明するでしょう。

アイデアが無造作に書かれた下書きは、この話の雑談の部分です。その中から要点となるもの、つまり猫の餌を見つけなければいけません。旅行中に親戚が家に来たとき、猫の餌に比べれば雑談は全く重要では無くなります。まずその要点を出来る限り簡潔に書き出してみましょう。それが読者に覚えておいてもらいたいポイントとなり、コンテンツを構成する核となります。

この記事を例にとってみましょう。この記事をA List Apartに寄稿したのは、自分が機知に富んだ、洞察力のある人間だと思っているからではなく、一見難しそうに聞こえる「ライティング」という仕事を、現実的で学習可能な作業として説明するためです。この記事を読んで、読者が「書くことはつまりは考えることなのであれば、自分にも出来るかもしれない」と思ってもらえることを願っており、これがこの記事の「猫の餌」なのです。

このことを念頭に下書きから概要を書き出しましたが、その時は「ライティングはもっと人々に理解されるべき、学習可能なスキルである」といったようなことが書かれていました。このフレーズは後で改良されましたが、この時点で要点が明確になっているのがわかるでしょう。

議論ではなく、ただ話を共有したい時

現在売られている多くのHOW-TO本は、同じようにフォーマット化された話になっており、ほぼ全ての本には「私はこの方法で(ある作業や目的を)達成しました。読者にも同じように役立つことを願っています」と書かれています。もし明示的に書かれていなくても、話の裏には必ずこのようなメッセージが隠れているでしょう(もちろん、この記事にも含まれています)。もちろん、このような個人的な経験から語られるアドバイスは特定の人にとっては役に立つため、書き出す価値があります。Googleである疑問を検索する時、ほとんどの場合このような「個人的なアドバイス」が答えとして表示されているのを考えれば、その価値の大きさがわかるでしょう。

この個人的なアドバイスは、特に変化の激しいWebデザインやWeb開発の分野では役に立ちます。ただし、とりとめの無いHOW-TOの羅列を内容の充実した記事にするには、いくつか注意すべきことがあります。

初めに、なぜそのアドバイスが読者ではなく書き手であるあなたにとって大切なのでしょうか? それが仕事の上でひとつの成長ステップになった等の理由はあるでしょうか?

2つ目に、アドバイスしているような結果となった理由はなんでしょうか? それは予想していた結果だったでしょうか? また、その結果によってやり方を変えたりしたでしょうか? 

最後に、そのアドバイスは同じ仕事、同じレベルの人々にも役に立つものでしょうか? それは新人がよくやるような失敗に対してか、または業界全体で見過ごされているようなミスについてでしょうか? もし同じようなアドバイスをWebで検索したら、間違った情報が多く見つかったりするでしょうか? または、正しい情報が見つけにくくなっているのでしょうか? これらの質問に答えることが、個人的な日記と、読者に向かって書く記事との違いになります。

読者をサポートする

編集者はよく「読者のことを考えろ」と言いますが、自分のために書いているか、他の人の役に立つために書いているかの違いはこの点にあります。最初の作業で書いた下書きに、読者に伝えたい大まかなテーマが書かれていると思いますが、この段階では読者のことを考えながら、読者が必要としている説明や具体例などを書いていきます。この時点では既にメインテーマは決まっているので、もしかしたらその短いメモのようなテーマを見て、「その通りだと思うよ」と同意してくれる読者もいるかもしれません。

しかし、ほとんどの人は更に説明が必要でしょう。読者を説得するための根拠も必要なこともあります。ここで議論の裏付けが必要になってきます。

「議論の裏付け」というと、大学のレポートで苦労した経験を思い出す人もいるかもしれません。実際、下書き状態のテーマを説得力のある文章構成に作り替えるのは簡単ではありませんが、それは大学の成績のためではなく、書き手の考えなど全く知らない読者のために行なうのです。

メインテーマをサポートする文章は、そのテーマが様々な状況の中でどのように適用されるかを示しながら、テーマに重みと妥当性を加えます。自分の書いたテーマに、読者が「なぜ?」と問いかけてきた場合を想像してみましょう。なぜそれが正しいのか? なぜそれが問題なのか? なぜそれが(読者にとって)重要なのか?等々・・・ 時にはデータを数値化して示す必要があるかもしれませんし、多くの良い例を挙げることで読者を納得させることもあるかもしれません(この記事ではこの方法を取っています)。ここで読者に食って掛かるようなトーンにならないよう注意しましょう。討論をしているのではなく、あくまで和やかに会話しているイメージです。

テーマはどの程度サポートすれば良いでしょうか? 基本的には、自分で考えられる「なぜ?」という質問に答えられれば十分でしょう。例えば、「なぜこれを書いているか?」には「仕事の役に立つから」と答え、「なぜ仕事の役に立つか?」には「仕事の目的が明確になることで効率が上がるから」と答えていくという感じです。

読者の質問は怖い?

このように「なぜ?」という質問を繰り返していると、嫌な人にしつこく尋問されているような気になることがあるかもしれませんが、読者が文章を読むときはそんな気分にならないので安心してください。ただ読者は他の事に気が取られているため、今何の話をしているのか何度も確認しなければいけないというだけです。テレビを見ながらネットをすれば、その気持ちがすぐにわかるでしょう。

読者の時間と努力を尊重するという意味で、書き手は読者の友人にならなくてはいけません。文学的な文章読むのでなければ、読者が文章を理解するために努力する理由はありません。そのため裏付け的な文章や具体例などは、しっかりメインテーマと結びついている必要があります。メインテーマに行き着く前に読者が離れてしまっては意味が無いのです。

そのため、文章を書く前に構成のアウトラインを用意し、そこに関連付けを明確に記述しておくのも良いでしょう。そうすれば実際に書き始めた後でも、どこに向かっているのかを見失うことが無くなり、セクション同士がもっと自然に繋がるようになります。

また、これは継続して行なうべき作業でもあります。下書きを書いた後は、それぞれの作業の段階で「どこかでメインテーマを見失ってないか?」と確認しましょう。この質問に答える時は、書く能力よりも読む能力が大切になるため、書く事に苦手意識のある人でも取り組みやすいと思います。

「うまく」書くために

ここまでくれば、しっかりとした構成の文章が出来上がっているでしょう。編集の世界では、ここから1行1行単語や文章構成を見直しながら改善していくため、出版まで長い時間がかかります。

この段階はまた、言葉にこだわりのある人ほど作業が苦しくなるところでもあります(そして多くの書き手はそうだと思います)。ただし、ここは文章を壊す段階では無いので、今まで書いてきた努力を忘れないようにしましょう。

ここでは回りくどい言い方を簡潔な言葉に直し、段落を並べ替えたりして文章がスムーズに流れるよう修正していきます。これは前の段階の作業とは全く違うもので、とても満足できる作業でもあり(文章が文字通り歌う時の感覚はすばらしいものです)、とても緊張感のある作業でもあります(文法的な間違いが1つも無い状態にしなければいけません)。このWebマガジンでもこの作業には特に力を入れていて、多くの場合記事の内容1つ1つについて著者と確認していますが、これはスタイルによって差があるでしょう。新聞ではもっと厳格な基準に沿ってトーンなどもそろえる必要があるでしょうし、比較的カジュアルなブログでは書き手の個性を尊重する傾向があると思います。

もし、もっと個人的な記事であっても、この段階で多くの人に読んでもらい、わかりにくい点や間違いを指摘してもらうようにしましょう。自分では気付けないことは意外と多いものです。そして、もしこの段階で全ての間違いを見つけられなかったとしても、それはコミュニケーション能力が無いという事とは無関係なので、なるべく気にしないようにすることが大切です。

良いアイデアを持ちながら、書くことが苦手なためそれを表現できないという人は多いようです。確かにライターにとっても書く作業というのは大変なものです(この記事は出版されるまでに9回も校正されています)。

しかし、それでも書くという作業の見返りは大きいものです。キャリアのどの段階であっても、何年もの経験がある人でも入社したばかりの新人でも、自分のアイデアを書くということは、そのアイデアに対して特別な責任感を感じさせてくれます。書く過程で「なぜ?」の質問に答えることにより、なんとなく行なっていたことに意味を持たせ、自分自身や自分の仕事をよりわかりやすく伝えるためのスキルが身につくのです。

これは意志を育てる技術です。私達はこの技術をWebにも人生にも、もっと役立てるべきです。言葉選びではなく、考えること。雑音ではなく、メッセージを伝えること。アイデアをもっと書き出していきましょう。

Translated with the permission of A List Apart and the author[s].