Webサイトを評価する – ヒューリスティック評価

「ヒューリスティック評価」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? これはユーザー中心設計のユーザビリティ評価手法の1つで、経験則により導かれた評価基準に従ってアプリケーションのユーザビリティを評価する手法です。

「経験則」と言うと、その分野のプロでないと出来ないことのように聞こえますが、ここで言っているのは個人の経験ではなく、歴史の中で良いと証明されてきた基準をもとに評価を行なうという意味です。

もちろん、その分野で経験を積んだプロであれば、的確な評価が出来るようになりますが、「ヒューリスティック」という言葉に、「正しい答えではないが、ある程度のレベルで正解に近い答えを得ることが出来る方法」という意味が含まれるように、一定のレベルの評価基準があれば、誰でもこの評価手法を活用することが出来るのです。もともとはシステムやアプリケーションを評価するための手法でしたが、Webサイトの評価にも応用することが出来ます。

この記事では、そんな評価基準を紹介したいと思います。

ユーザビリティヒューリスティック

まず、ジェイコブ・ニールセンの10のヒューリスティックです。これは個々のガイドラインというよりは、原則的なルールをまとめたもので、インタラクションデザインで広く知られている評価基準です。

ヒューリスティック 説明
システム状況の可視化 システムが今何をしているのかを、適切なフィードバックによって常にユーザーに知らせましょう。
わかりやすい言葉 システム的な言葉は使わず、ユーザーの言葉で話します。情報は自然で論理的な順序で提供し、普段見聞きする表現を使いましょう。
自由なコントロール ユーザーは間違った操作を行なうことがあるため、そこから抜け出すためのわかりやすい「出口」を用意しましょう。操作の取り消しや、やり直しをサポートします。
一貫性と標準 同じ意味のことは、同じ言葉、状況、操作などで表現しましょう。1つのことを様々な方法で表現するのは混乱の元です。
エラー防止 良いエラーメッセージがあれば十分と考えるのではなく、まず問題が起きないように設計するよう心がけましょう。
見つけやすさ 対象物や行為は目に見えるようにしておき、ユーザーが覚えておかないといけないことを最小限にしましょう。ユーザーに何かを思い出させようとするのでは無く、必要な情報はその都度見つけられるようにします。
柔軟性と使用効率 例えば、ショートカットキーの操作は熟練者の操作を早めますが、初心者には見せない方が良いでしょう。ユーザーのスキルに合わせて、初心者、熟練者両方に対応できるようにします。
シンプルなデザイン ダイアログには必要な情報だけを表示するようにしましょう。無関係な情報は、必要な情報の邪魔をして、その視認性を落としてしまいます。
エラーからの復帰 エラーメッセージは、コードや記号などを使わず、簡単な言葉で表現しましょう。問題を的確に示し、解決策をわかりやすく提示します。
ヘルプとマニュアル マニュアル無しでも使えるようなシステムであれば良いのですが、そうでない場合はヘルプとマニュアルは必要です。ヘルプやマニュアルはすぐ見つけられるようにし、あるタスクを行うための操作をステップ毎に、簡潔に説明するようにします。

インタラクションデザインの第1原則

また、ブルース・トグナッツィニのインタラクションデザインの第1原則では次のようにまとめられています。

原則 説明
予測 ユーザーが必要なものはあらかじめ準備しておきましょう。ユーザーが必要な情報やツールなどを自分で探してくれると思ってはいけません。
自立性 ユーザーが自由に作業を行えるようにするのは大切ですが、それはルールを全く作らないという意味ではありません。人は一定の枠組みの中での方が学習が早く進み、作業をより効率的に行えるようになります。そのために必要な情報を提供し、システムの状態が一目でわかるようにしましょう。
色覚不全者対策 情報伝達手段として色を使うときは、色が見分けられない人のために、色以外の情報も提供しましょう。
一貫性 一貫性にはいくつかのレベルがあり、ユーザーのインタラクションに直接関わるものの方が重要だと考えられています。以下のリストは、重要度の高いものから順に並べたものです。順位の高いものの方がインタラクションに直接的に関わるもので、順位の低いものはあまりインタラクションとは関係無いものとなっています。

  1. ユーザー操作の解釈(例:ショートカットキーが長押しされた時に、その動作を継続するか等)
  2. 目に見えない構造(例:Microsoft Wordのページ周りにある余白)
  3. 目に見える小さな構造(例:ウィンドウをリサイズするためのグリップ)
  4. アプリケーションの見た目(例:画面デザイン)
  5. 一連の製品群
  6. 自社製品全体
  7. 他社を含む同一製品
デフォルト 初めにデフォルトが選択された状態にしておくことで、ユーザーが必要に応じて簡単に変更できるようになります。デフォルト設定は単なる初期状態ではなく、最適化された状態になるようにしましょう。また、デフォルトという言葉は使わずに、「標準」や「標準設定」、または「初期設定の復元」などはっきり意味のわかる言葉を使います。
ユーザーの効率 コンピューターの生産性ではなく、ユーザーの生産性に注目しましょう。システムの処理時間でユーザーが待たされることが無いようにし、一部の人だけ効率的に操作できるシステムでは無く、使う人全体の効率を考えて設計するよう心がけましょう。また言葉の表現にも注意し、ヘルプメッセージ等はしっかりと書いて、問題解決の責任を持たせるようにします。
探索可能なインターフェース ユーザーが自由にアプリケーションを探索できるようなインターフェースを心がけましょう。

  1. わかりやすい目印や道標を用意する
  2. ユーザーが不安を感じるような場所にはワンクッション置く
  3. 操作はいつでもやり直しが出来るようにする
  4. いつでも出て行けるように出口を用意する

といったことは全て大切な要素です。そして、一貫したビジュアル表現によってユーザーが心地よく探索できるようにしましょう。

フィッツの法則 フィッツの法則とは、ターゲットまでの所要時間は、そのターゲットへの距離と、ターゲットの大きさで決まる、というものです。1940年代に、ポール・フィッツが飛行機のコクピットをデザインしていた時に考え出した法則と言われています。大きいボタンほど素早く押すことができますし、近くにあるものも同様です。PCでは画面の端の方が、中心より近くにあると考えられるでしょう。
ヒューマンインターフェースの対象 ヒューマンインターフェースの対象となるのは、見える、聞こえる、触れられる、または何か感知できるものとなります。見えるものとしては、グラフィック・インターフェースが馴染み深いですが、音や触覚として感知されるインターフェースの研究も進んでいます。
これらのヒューマンインターフェースは標準的なインタラクションの方法を持ち、インタラクションの結果として標準的な動作を行ないます。フォルダを開けば中のファイルが見える、といったように、理解しやすく、一貫したものになるよう注意しましょう。
待ち時間削減 ユーザーが待ち時間を感じないように工夫し、アプリケーションがより早く動作するために必要なことをしましょう。
学習の難易度 理想的には、初めて使った時でもすぐにマスターできるようなアプリケーションを作ることですが、実際は簡単なものでも学習が必要になります。そのため、使いやすさを保ちながら、同時に学習しやすさを向上させるよう心がけましょう。
メタファー 適切なメタファーを使うことで、ユーザーは概念的なモデルから詳細を理解できるようになります。メタファーを使う時は、人間の知覚に働きかけ、記憶を引き出すような使い方を意識しましょう。
成果の保護 インターネットの切断やPCの電源切れ等は別ですが、ユーザーのエラーによってそれまでの成果が消去されることが無いようにしましょう。
読みやすさ ユーザーに読んでもらう必要のあるテキストは、はっきりコントラストをつけます。白または薄い黄色の背景に、黒文字が一番良いでしょう。グレーの背景は避けるようにします。
フォントサイズは、一般的なモニターでも十分読める程度の大きさにします。ラベルやヒントなど比較的重要ではないテキストは小さく、重要で意味のあるコンテンツは大きく表示します。
また、高齢者への配慮も忘れないようにしましょう。45歳を超えると光の伝達速度も遅くなるため、さらに大きな文字やコントラストが必要になります。
作業状態の保存 インターネットという技術は、根本的にはステートレス(以前の作業状態が保存されず、接続する度に新たに作業状態を構築しなければならないこと)なもののため、ユーザーの作業状態を保持しておくのはアプリケーションの責任です。アプリケーション固有の情報に加え、次のような情報もユーザーに提供できるようにしておきましょう。

  1. ユーザーはそのアプリケーションを使うのが初めてか
  2. ユーザーは今どこにいるか
  3. ユーザーはどこに行こうとしているか
  4. ユーザーは前はどこにいたか
  5. ユーザーが最後に接続した時はどこにいたか
ナビゲーション ナビゲーションはしっかり見える位置に置きましょう。多くのユーザーは頭の中で地図を作ったりはしないでしょうし、実際作ろうともしません。
ナビゲーションはシンプルで明確に。理想的には、ユーザーが色々なところに行くのでは無く、ユーザーは1ヵ所に留まっていて、作業に必要なものがユーザーの所に来るようなイメージを持ちましょう。

もちろん、ヒューリスティック評価はそれ自体が完璧な評価手法では無いため、定量的な評価ができない、評価者のスキルに依存するといったデメリットもあります。

しかし、多くの時間や人手を必要とせずに、信頼できる評価を実施できるという点は、多くのリソースを持たないNPO団体にとって大きなメリットになると思います。Webサイトのリニューアルや、Webマーケティングの評価を行なう時など、Webに関わる場面で広く活用できるでしょう。