Tone and Voice: ユーザーへの関心を表現する

この記事はKate Kiefer Lee著「Tone and Voice: Showing Your Users That You Care」の抄訳です。
This article is a translation of "Tone and Voice: Showing Your Users That You Care" By Kate Kiefer Lee.

「声」と「トーン」。「トーン」と「声」。どちらも同じような意味で使われることが多いですが、それぞれ異なった意味を持っています。声は人それぞれに違うもので、トーンは文章に人間味を持たせます。ブランディングでは、ユーザーに好まれる声を作るのはとても重要な要素ですが、それ以上に、一貫した声を保ちながらそのトーンに注意を向けることが、より意味のあるWebコンテンツを作り、ユーザーとより良い関係を築くのに大切なことです。

では、声とトーンの違いは何なのでしょうか? 人に例えると、企業の声とは、その人の性格で、企業に関する全てのコンテンツの中に根付いています。声はそれが「誰か」を表します。ブランドは通常時間をかけて成長していきますが、その声は一貫して同じものです。しかし、ブランドの「トーン」は変化します。声のトーンとは、その時の感情の表れそのものです。私達自身の声とトーンを考えてみると、私の声はいつも同じですが、トーンは友人や家族と話す時と、上司や顧客と話す時では全く違っています。

友人と冗談を言い合っているときはカジュアルなトーンですが、深刻な相談を受けたときは真剣なトーンを使います。私達は相手の感情に反応し、共感を表すために本能的にトーンを調整しますが、Web上のコンテンツにはこの共感がありません。

そのため、ユーザーと良い関係を築くためには、コンテンツの「声」と「トーン」両方が大切になります。

まず初めに、ブランドの「声」を見つけないといけません。もしかしたら、その企業特有の専門用語集や山のようなSEO関連資料の中から掘り出さないといけないかもしれませんが、とても重要な作業なので必ず取り組みましょう。

もし人間との関わりを持とうとするなら、ブランドの声も人のように聞こえるべきです。このことを頭に入れて、企業の価値観に一番近い人のところへ行って相談しましょう。簡単なインタビューも効果的です。創業者やCEO、広報担当者、カスタマーサポートチームや、顧客自身に話を聞くことで、ブランドの声の根底にあるものが見えてきます。このインタビューの目的は、何か情報を見つけるためではなく、対象者に時間をかけて話をしてもらうことです。笑いや話のリズムの変化など、何か感情的な反応があったら理由を聞き、またインタービューでは次のような質問をするのも効果的でしょう。

  • あなたの会社は何をする会社ですか?
  • なぜユーザーは会社のWebサイトを訪れるのですか?
  • もしあなたのブランドが人だとしたら、彼(または彼女)のことをどう説明しますか?
  • ユーザーがあなたのWebサイトを訪れたとき、どう感じてもらいたいですか?

これらの質問に答えたら、企業のパーソナリティを人間味あふれる表現で書き出しましょう。会話の中で人に説明しているように記述したり、小説のキャラクターのように書いてみるのも効果的です。

パーソナリティの特徴をリスト化するのも有効ですが、それよりも「これは正しいけど、これは違う」といったリストを作ると、パーソナリティに深みが出て、人格の深いところの描写ができるようになります。私が働く「MailChimp」という会社では、これがライターやデザイナーにとって頼れるツールになっています。MailChimpのリストは次のようになりました。

  • 楽しい、けど子供っぽくない
  • 賢い、けどずる賢くない
  • なんでもできる、けど複雑なものではない
  • 頭がいい、けど退屈じゃない
  • クール、だけどよそよそしくない
  • カジュアル、だけど雑じゃない
  • 頼りになる、けど横柄じゃない
  • エキスパート、でも偉そうじゃない

このようなリストは声とトーンを考える上で便利な出発点となります。ここにコンテンツの種類や説明、コピーライトのサンプル、企業のミッションや、ユーザーペルソナなどを加えていき、その企業の文化にあった「声のガイドライン」を作ります。この時、人間の声と同じように、ブランドの声も時間をかけて成熟していくのを忘れないようにしてください。変化に柔軟なガイドラインにすることで、将来見直しを行なう時に変更が容易になります

トーン

企業の声とトーンがずっと同じだと、そのコンテンツには心が無く、機械的に聞こえてしまいます。ロボットみたいな話に興味を持つ人なんているでしょうか? そのコンテンツが自社向けか、顧客向けかに関わらず、トーンは柔軟でなければいけません。何かを公開するときはいつも、次の2点をベースにトーンを調整しましょう。

  • コンテンツの種類・シチュエーション
  • ユーザーの感情

ユーザーの気持ちを深く知るには、まず初めにどんな種類のコンテンツを書いているのか理解しないといけません。そして、読者がどんなシチュエーションでそれを読むのかを考えます。いくつかの種類のコンテンツ(マーケティング用のコピーライトなど)には、それ自体に明るいトーンが含まれますし、システムの障害告知やヘルプなどは、直接的な表現であるべきです。どのようなトーンにするかを決めるには、読者がそれを読む時、どのように感じているかを知る必要があります。そのために、次のような質問の答えを考えてみましょう。

  • 読書はそのコンテンツを読むとき、どのようなシチュエーションにいるでしょうか?
  • 読者はその時、どんな感情を感じているでしょうか?
  • そのコンテンツは読者にどんな影響を与えるでしょうか?
  • 読者の感情を維持、または改善させるためにはどうすればよいでしょうか?

MailChimpのユーザーがキャンペーンに当選したとき、私達はお祝いのメッセージを送ります。ユーザーはほとんどの場合、MailChimpでニュースレターを送った後は仕事を終えた開放感や幸福感、達成感を感じているため、次のメッセージ例のように、このポジティブな感情を向上させるカジュアルな言葉を使います。

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しかし、ユーザーは私達のコンテンツと関わっている時、いつも楽しんでいるわけではありません。時には読者やユーザーを失望させ、イラつかせることもありますし、そのような時は私達が全てのユーザーを本当で気に掛けているということを知ってもらわなければいけません。

もし誰かがMailChimpでキャンペーンメールを送り、それがスパムだとわかった場合、MailChimpはそのアカウントを停止し、ユーザーにルールを守るよう警告を送ります。ここで伝えるメッセージは、基本的には「スパムを送るユーザーのアカウントは停止されます」という内容のものです。地球上で誰もこのような警告を受け取って嬉しいとは思いませんし、Eコマース企業はメールに依存し、キャンペーンに遅れが出れば、その分利益が減るので、このような警告は悪いニュース以外の何物でもありません。私達はこのような、混乱やストレスを感じているユーザーに敏感でないといけません。このようなシチュエーションでは冗談は言わず、動揺しているユーザーと直接会話をしているように、直接的で落ち着いたトーンで状況を説明します。

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きわどいトピック

声のトーンはコンテンツを作ることも壊すこともできます。特に読者が敏感に感じるトピックについてのものであれば尚更です。次のようなトピックを扱うときは、ユーザーのニーズと感情に共感できるよう特に気をつけましょう。

健康と医学:ユーザーが病院のWebサイトを訪れる時、彼らがすでに無力感や悲しさを感じている可能性は大いにあります。このような時に、親しみやすさを表現しようとユーモアを使うのは適切ではなく、ユーザーは自分の状況を理解されていないと感じるでしょう。一方、よそよそしいトーンを使うのも、ユーザーは逆に突き放されたような不快感を感じる可能性があります。このような時はポジティブで理解あるトーンを使い、カジュアルにもフォーマルにもならないよう気をつける必要があります。

宗教と政治:これは言わずもがな、ですね。人々の心に近い部分の話ですので、なるべく避けたほうがいいでしょう。

お金と個人情報:ユーザーにクレジットカードの番号や個人情報を入力させる時は、信用に値するトーンを保ち、軽い印象を与えないようにします。

これらはほんの一部で、多くの人はWebを使う中で敏感になる瞬間があります。ユーザーが何かのトラブルシューティングをしていたり、問題を報告したり、タスクが実行できなかったりする時は、コンテンツのトーンには特に気をつけましょう。以下のコンテンツの種類は特に敏感になる必要があります。

  • アプリケーションのヘルプドキュメント
  • FAQやお問い合わせページ
  • 申し込みページ
  • プライバシー情報
  • システムの障害告知や警告
  • メールマガジンなどの退会画面

あなたのニュースレターから退会しようとする人は、あなたからメールを受け取りたくないと言っているわけですから、真面目なトーンにしてもフレンドリーなトーンにしても、あまり意味はないでしょう。オバマ大統領の選挙キャンペーンはこの点をよく理解していました。キャンペーンのニュースレターのから退会すると、次のような画面が表示されます。

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このメッセージは、読者の感情をよく理解していることを伝えていますし、受け取るニュースレターを減らすというオプションを提示しているという点で優れています。このような理解力のあるトーンを使うことで、あと一歩で退会するところまで来た読者の多くを引き止められたでしょう。

誰にでも出来る

Voice and Toneは、いくつかのシチュエーションで読者が感じる感情をもとに、MailChimpのライター向けに作られたガイドです。このサイトでは私達が使っている多くのコンテンツの種類やヒント、例を紹介しています。画面の色は読者の感情を表していて、コンテンツの種類が変わるごとに緑(元気、楽しさのような明るい感情)から赤(怒りなどの激しい感情)に変化します。次の画面のように、タスクの成功メッセージは緑で、警告は赤で表示されます。

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これはMailChimpのVoice and Toneはガイドのための実験的なプロジェクトなので、多くの時間とリソースを使って開発されましたが、あなたの声とトーンのガイドを作るのに、このようなサイトは必ずしも必要ではありません。ガイドを作る唯一の要件は、人に共感することです。その他はGoogle Docsでも、ウィキページでも、テキストファイルでもなんでもいいでしょう。MailChimpでは、社員全員が毎日何らかの形で会社を代表して顧客とコミュニケーションを取るため、社員は必ずTone and Voiceのガイドを見ることが義務付けられています。

声とトーンの評価は、企業のコンテンツ戦略や編集、ユーザーエクスペリエンス設計のプロセスに組み込まれるべきです。声とトーンは私達のコンテンツには欠かせないもので、「あったほうがいい」という種類のものではありません。共感できるコンテンツは私達とユーザーの間に人間同士の関係をもたらし、コンテンツの質を改善させるだけでなく、私達のカルチャーを向上することにも繋がるのです。